高湯温泉

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高湯温泉紀行

高湯温泉紀行

初冬の湯三昧・安達屋、花月ハイランドホテル、玉子湯

2018/11/某日 | 安達屋・花月ハイランドホテル・玉子湯

いざ、湯煙が誘う冬の高湯遊びへ

 紅葉も過ぎ、高湯に本格的な冬の足音が聞こえ始めた11月下旬。静けさを取り戻した温泉街の情緒を求め、高湯の開湯を見つめてきた創業400年の老舗宿「安達屋」を再訪。
 「安達屋」と言えば圧巻の大露天風呂が人気だが、椿のステンドグラスや石像の湯口が昭和レトロな男性大浴場「不動の湯」も、捨てがたい魅力がある。平成最期の冬となる今冬、変容する時代へ想いを馳せる旅に、これ以上に似合う風呂もないかもしれない。

 今回お願いした客室は、いつもと少し趣向を変えた畳にベッドの和洋室。腰壁に施された洋風の壁紙や、カーブを描いた下がり壁が洒落た雰囲気だ。古き良き湯治場の面影が今なお残る高湯で、伝統的な和のリゾートウェアの浴衣でごろん、とベッドに寝転ぶ愉快(笑)。むろん、宿には丁寧な清掃としつらいで快適さを整えた昔ながらの和室もある。気分や予算に合わせた過ごし方で楽しんでいただきたい。
 冬至へと向かうこの季節。夕方も4時をまわればぐっと冷えてくる。辺りにまだ目立った積雪はないものの、手招きする露天風呂の湯煙に負け早速、貸切風呂の湯浴みへ(笑)。
 贅沢な広さと風情を誇る「安達屋」の貸切露天風呂「薬師の湯(一の湯・ニの湯)」は夜10時までは要予約(1組50分・無料)。フロントに申告すれば鍵を貸してくれる。それ以降の深夜12時まで、また朝の5~7時は一般開放され、宿泊客なら自由に楽しめる。ちなみに光の移り変わりが楽しめる日没前後は、個人的にイチ押しのおすすめタイムだ。

もてなし上手な老舗湯宿の美味旬菜

 個室タイプのテーブル席が並ぶ「囲炉裏の間」でいただく夕食は、多くの常連がこの宿を選ぶ理由のひとつとなっている。季節毎に内容が変わるメニューは会席料理にプラス、目の前で炙り上げる炉端焼きがセットになった楽しい趣向。後出し料理にはサプライズな洋皿料理もある(本日は海鮮素材とホワイトソースの「林檎釜焼き」)。すりおろした自然薯を冬の淡雪に見立てた「自然薯鍋」は、客のリクエストでこの季節の定番となった名物料理だ。上品な出汁を吸い込んだふわふわの食感は一度味わえば、癖になる美味。工夫を凝らした仕立てと味わいに、今夜もついつい浴衣の帯を緩めることに(笑)。
 ちなみに食事の最後を飾るデザートは、ラウンジに移動して楽しむのが「安達屋」流。満腹の腹を抱えながら、甘美な手作りのクリームブリュレの味に連れも私も無防備の破顔(笑)。ラウンジには自由に楽しめるコーヒーや紅茶、ハーブティー等のドリンクサービスもある。静かなJAZZのBGMの中、アンティークなロッキングチェアに身を任せ、のんびり楽しむ夜長の談笑も、贅沢な冬のひとときだろう。

極まる贅沢、源泉かけ流しの大露天風呂

 部屋で食休みした後、向かった大露天風呂「大気の湯」は、夜の陰影に縁どられた幻想世界。宿が誇るこの風呂は、夜9時以降は混浴タイムだ(夕方6時~夜9時は女性専用)。女性はタオルを巻いての入浴も可能。もちろん、混浴に抵抗ある方のために女性大浴場「姫の湯」には敷地内に別途、女性専用の露天風呂もあるのでご安心を。
 開放感満点の「大気の湯」の奥行きは何と約30m。自然湧出した源泉をそのまま引湯した「源泉かけ流し」をうたう高湯温泉で、これほどの広さの風呂を持つのは相当難しい。「大気の湯」では常に入浴に適した湯温を維持するため、あちこちから源泉が注ぎ込まれ、この広さにして新鮮な湯が楽しめる。広大な湯船の一角には寝湯や打たせ湯をはじめ、ユニークな洞窟風呂も配され、贅沢な湯遊びが堪能できる。ただひとつ、注意事項としては、乳白色の高湯の湯は湯船の底がまったく見えない。湯の中を歩く際は慎重な足運びを心していただきたい。
 就寝前には、自由開放となった貸切露天風呂「薬師の湯」へ再び出向き、欲張りな“はしご湯”(一の湯・ニの湯)を堪能。ちなみに、宿にはこの他にも大人2、3人の利用に丁度いいコンパクトな貸切内湯もある。利用はもちろん無料。希望の際はフロントへ申告を。
 翌朝、独り占めの長湯を満喫した連れと向かった朝食は、福島の郷土料理をはじめ、中華やパスタ、自家製パンにプチケーキなどなど、目移りする20種類程の手作りメニューがズラリを並ぶ豪華さ。専用のダイニングでいただく「安達屋」の朝食は、気軽に楽しめるバイキングスタイル。今朝のメニューには、宿酔の腹にやさしい「朝おでん」もある!あかあかと燃える薪ストーブにアンティーク家具、宿主の趣味を感じる古書が迎える朝食会場は、落ち着いたシックな雰囲気で、朝からほっこりと幸せな気分になれる。
 チェックアウト前には、再び「大気の湯」で名残のひと風呂(この時間は混浴タイム)。やわらかな木漏れ陽が降り注ぐ初冬の大露天風呂は、空の青さを映したような輝きをまとい、その美しさと温もりにうっとりと癒される。
 ちょうど名物風呂の清掃日でもあったこの日。宿の方にお願いして見学させていただけば、冬空の下、熟練の作業員の方が額に汗しながら慣れた手つきで巨大な浴槽を黙々と磨き上げていた。400年続く高湯の温泉情緒は、こうした人々の手仕事の結晶でもある。

眺めに憩う眺望絶佳の天空の宿

 穏やかな冬晴れ。連れと相談のうえ、今日は急きょ日帰り入浴も楽しんで帰ることに。「安達屋」のすぐ目の前には県内外から人々が訪れる人気の共同浴場「あったか湯」(詳しくはこちらを参照)もあるが、この日、向かったのは温泉街の最奥にある「花月ハイランドホテル」(詳しくはこちらのブログを参照)。ここはこじんまりとした宿が並ぶ高湯温泉街で異彩を放つ、大規模な近代的ホテルだ。宿の自慢は何といっても、高台ならではの素晴らしい眺望にある。
 入浴料は大人700円(小学生以下350円)。入口の券売機でチケットを購入し、フロントで手続きを済ませ早速、露天風呂へ。大浴場とは異なる場所に独立して造られた露天風呂からは、重なり合う吾妻山の尾根が見渡せる。山肌が色づく紅葉の季節なら、ここから極彩色の景色が一望だ。もちろん「花月ハイランドホテル」の湯の楽しみはこれだけではないい。宿にはちょっとした小宿の大浴場程の広さと凝った造りを持つ2つの貸切風呂「ひめさ湯り」(有料1620円・50分)もある。風呂はいずれも屋根付きの半露天で、清々しい開放感!目の前には、四季折々に豊かな表情を見せる吾妻の山並みが広がる。
 高湯の中でも随一の見晴らしを誇る「花月ハイランドホテル」は、四季折々の大パノラマとともに、朝は山肌を染め上げる光の舞台を、夜は漆黒に浮かぶロマンチックな福島市街の夜景を、そして運がよければ雲海劇場にも会えるラグジュアリーな天空の宿だ。

 ところで初冬の高湯を訪れるなら、ぜひ味わいたいのがこの季節ならではの香り高い“新蕎麦”。麓周辺には蕎麦の名店も点在し、例年11月頃からは道沿いで“新蕎麦”と書かれた幟が立ち並ぶ。今回訪れた「胡々里庵」もその中のひとつ。注文した「ミニ野菜天せいろ」(1050円)で楽しんだ蕎麦は、会津産の蕎麦粉を使い9:1で打ったものだという。細めだがコシのある蕎麦は、つるりとした喉越しだ。つけ汁は鰹節と昆布でこしらえた私好みのやや辛め。一緒に添えられた辛味大根おろしの清涼な風味が湯上りの体に染み渡る。高湯の湯を想わせる乳白色の“そば湯”は、驚きのトロリとした濃厚さだった(笑)。小高い場所に建つ店の駐車場からは、眼下に福島市街の景色も楽しめる。硝子のように硬質な透明感をまとった初冬の空は、どこまでも清々しい胸のすく景色だった。

高湯の歴史を紡ぐ鄙の時代湯にて

 せっかちな冬の日の短さに急き立てられながら、食後は再び山を昇り最後の目的地「玉子湯」(詳しくはこちらを参照)へ。夕暮れの気配に刻々と白さを増す湯煙が描く景色は、見る者の郷愁を誘う。
 宿の屋号にもなっている萱葺きの湯小屋「玉子湯」の創業は1872(明治元)年。内部は創建当時の面影そのままに、脱衣場と浴槽が同じ空間にある簡素な造り。これは粗野か、はたまた贅沢か。時代の忘れ形見のようなこの湯に身を浸せば、温泉への原初の記憶が私にそう問いかけてくる。建物のすぐ傍らには、湯気を上げて流れる温泉水の川も寄り添い、昔と変わらぬ景色をうたっている。春には川に架かる橋のたもとに八重桜が咲き誇り、一帯は絵画さながらの夢のような景色になる。
 湯小屋のすぐ脇には高湯温泉の生命線とも言うべき自噴源泉、玉子湯(高湯5番)が祀られた祠の姿も見える。ここから湧き出す透明な湯が空気に触れ、あの白濁の色になるのだと言う。高湯に暮らす人々にとって源泉はまさに、吾妻の大自然から託された神聖な“預かり物”であり、神そのものだと言えるかもしれない。
 湯小屋と並ぶ露天風呂「天翔の湯」も、ガレ場を思わせる巨石の石積みが周囲の景色と調和する野趣満点の岩風呂だ。目前に迫る山の景色と一体になって寛げる開放感は、もうひとつの名物風呂として同じく温泉ファンに愛されている。

 ちなみに高湯の歴史において「安達屋」、「玉子湯」と並ぶ老舗が創業140年の「吾妻屋」(詳しくはこちらのブログを参照)。客室数わずか10室に対し、内湯と外湯を含め計8つの風呂がある「吾妻屋」は、宿泊客の寛ぎに徹することを信条に、日帰り利用は受け付けていない。山の斜面に建つ広大な敷地の奥、自然林をずんずん登った先にある岩露天風呂「山翠」は、山懐にそのまま湯が湧き出たようなワイルドさ。高湯の湯の本領をどっぷりと満喫したいならぜひ、おすすめだ。宿にはこの他にも、先ごろお色直しをした趣異なる3つの貸切小露天「風楽」や、男女および貸切専用(要予約)の内湯「古霞」もある。外湯の利用は空いていれば無料で自由に楽しめ、利用時間も“ 夜明けから日没まで ”と風流なルールだ( 内湯は24時間利用可能 )。「古霞」の風呂のひとつには、丸太の芯を豪快にくり抜いた湯口に、遊び心あふれる“吾妻山”のレリーフも隠れている。来訪の際は探して見てはいかがだろう(笑)。
 ワイルドで繊細な日本の温泉文化を教えてくれる高湯温泉は、四季折々に秘湯ファンの心を捉えて離さない山懐の湯郷だ。時代の波に封印された “暮らしの湯” の原風景を、そのままとどめた姿は、年を経るごとに輝きを増す園生のような魅力にあふれている。
 まもなく訪れる豪雪の冬。高湯遊びの真骨頂は、まさにこれからが本番だ(笑)。

■四季を彩るいこいの宿「安達屋」
〒960-2261
福島県福島市町庭坂字高湯21
TEL/024-591-1155
http://www.adachiya.jp/
チェックイン 14:00 ・チェックアウト ~11:00
日帰り入浴/10:00~13:00 700円
[入浴時間]
ご婦人内湯「姫の湯」
殿方内湯「不動の湯」
大露天風呂「大気の湯」(※18:00~21:00は女性専用)
貸切露天風呂「薬師の湯」〈一の湯・二の湯〉(要予約)6:00~24:00
貸切風呂「ひめさ湯り」(要予約)7:00~21:00(※22:00~6:00はフリー)
[温泉の利用形態]
天然温泉・源泉100%。完全放流式、加水なし、加温なし
(※「薬師の湯」は季節により加熱水を給湯)
[アメニティ]
大浴場と内湯/シャンプー、リンス、ボディーソープ、石鹸、ドライヤー等
[交通のご案内]
■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線~県道5号線16km(約30分)
■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「高湯前」下車(約40分)
※福島駅西口まで送迎いたします(要予約)
【お迎え】午後3時/【お送り】午前11時

■天空の宿「花月ハイランドホテル」 
〒960-2261
福島県福島市町庭坂字神の森1-20
TEL/024-591-1115 
http://www.kagetsu.net/
チェックイン 15:00 ・チェックアウト ~10:00
日帰り入浴/10:30~22:00 700円
※入浴回数券7,000円(11枚綴り)あり
[温泉の利用形態]
天然温泉・源泉100%。完全放流式、加水なし、加温なし
[アメニティ]
大浴場と内湯/シャンプー、リンス、ボディーソープ、石鹸、ドライヤー等
[交通のご案内]
■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線~県道5号線16km(約30分)
■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「ハイランド前」下車(約40分) 徒歩約2分
※福島駅西口まで送迎いたします(要予約)
【お迎え】午後3時/【お送り】午前10時30分
★紅葉の名所として名高い磐梯吾妻スカイラインのスタート地点まで車で約1分。
高湯温泉から土湯峠へ吾妻の山並みを縫う雄大なパノラマコースは必見です。
<例年11月中旬~翌4月中旬まで冬季閉鎖>
※通行料は恒久的に無料化されました

■旅館「玉子湯」
〒960-2261
福島県福島市町庭坂字高湯7
TEL/024-591-1171
http://www.tamagoyu.net/
チェックイン 15:00 ・チェックアウト ~10:00
日帰り入浴/10:00~14:00(最終受付13:00) 700円
※定休日/水曜日
[入浴時間]
露天風呂と湯小屋「玉子湯」は6:00~22:00
大浴場「滝の湯」と内湯「仙気の湯」は0:00~24:00
[温泉の利用形態]
天然温泉・源泉100%。完全放流式、加水なし、加温なし
[アメニティ]
大浴場と内湯/シャンプー、リンス、ボディーソープ、石鹸、ドライヤー等

[交通のご案内]
■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線~県道5号線16km(約30分)
■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「玉子湯前」下車(約40分)
※福島駅西口まで送迎いたします(要予約)
【お迎え】午後3時15分/【お送り】午前10時30分

■今昔ゆかしき宿「吾妻屋」
〒960-2261
福島県福島市町庭坂字高湯33
TEL/024-591-1121
http://www.takayu-azumaya.jp/
チェックイン 14:00~・チェックアウト ~10:00
※チェックイン時に内風呂「古霞」・貸切風呂ご利用のご予約を承っております
日帰り入浴/無
[温泉の利用形態]
天然温泉
[アメニティ]
シャンプー、リンス、ボディソープ、ドライヤー
[交通のご案内]
■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線~県道5号線16km(約20分)
■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「高湯」下車(約40分) 徒歩1分

■胡々里庵(ここりあん)
高湯温泉の麓にある蕎麦屋の人気店。石臼挽きの会津産の地粉に吾妻山の伏流水を使用した9割蕎麦は、喉越しがよく更科風の細め。セットメニューや単品、デザートも充実している。
住所/福島県福島市在庭坂字栃清水12-16
TEL/024-591-5571
営業時間/11:00~売切れ次第終了(日曜営業)
定休日/木曜(祝日の場合は営業)
駐車場/有

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