高湯温泉

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高湯温泉紀行

高湯温泉紀行

冬の贅沢・安達屋、玉子湯、吾妻屋の雪見露天

2018/02/某日 | 安達屋・玉子湯・吾妻屋

高湯の極上、冬に極まれり

 雪月花。古来から日本において風流韻事の景物として愛され、美の基準となっているキーワードだ。今冬、関東や西日本では、数十年に一度という雪の当たり年でもあった。厳寒の2月。県下屈指の豪雪地帯である高湯温泉も、今頃は深い雪に覆われていることだろう。今年も高湯の雪見露天を愉しむ季節の到来だ。

 秘湯気分漂う山の鄙湯でありながら、JR福島駅や東北自動車道から車で30~40分と、アクセスに恵まれた高湯温泉は、近年、その人気が高まり、2017年の「温泉総選挙」で見事、環境大臣賞を受賞している。
 圧巻の雪景色を愉しみに、いつものワインディングロードを登り辿り着いた温泉街は、思っていたより穏やかだ。お世話になる「安達屋」の方に伺えば、今年の高湯の雪は、さほど酷くはなかったらしい。むしろやや少ないくらいだという。とはいえ、軒先に連なる氷柱の見事さに目を奪われる。
 帳場でチェックインの手続きを済ませ、早速、宿自慢の大露天風呂「大気の湯」へ。本来ならじっくりと、湯に浸かりながら待望の雪景色を眺めたいところだが、あいにく夜9時まではご婦人専用タイム。愉しみは食後までとっておくことにした。
 私の代わりに薄暮の大露天風呂を愉しんだ連れは、雪明りに浮かぶ詩情たっぷりの世界を堪能したらしく、だいぶ茹で上がった顔で戻ってきた(笑)。

湯に味わいに、宿に溢れる冬の贅

 部屋で少し休んだ後、予約していた貸切風呂「薬師一の湯」へ。一の湯、二の湯と2つある宿の貸切風呂は、母屋から一旦外で出て趣きのある萱門を過ぎ、寒さで氷結した小滝が配された茶庭のような露地を歩いた先にある。
 蒼から碧へ。簡素な明かりだけが灯る宵の風呂は、これぞ山の湯!とでもいうべき素朴な造りと贅沢な広さ。夜10時までは予約が必要だが、10時以降から朝7時までは空いていれば自由に愉しめる。音もなく降りてくる小雪を静かに迎え入れる湯溜りは、その一瞬、一瞬を留め置きたいほど儚く、心洗われる絵画のようだった。
 目でも愉しめる囲炉裏網焼きが評判の「安達屋」の夕食。添えられたお品書きには、ワカサギや百合根、ズワイ蟹など冬の名プレイヤー達の名前が並ぶ。中でもこの季節に人気なのが茸やセリ、牛蒡等の根菜に自然薯団子をあしらった「自然薯鍋」。伺えば、高湯の雪景色を模したものらしい。ほんのりと出汁の効いた自然薯団子のフワフワと幸せな食感は、思わず笑みが溢れるやさしい滋味だ。宿の方が目の前で焼き上げてくれる、岩魚や川俣軍鶏の香ばしさもまた絶妙。「真鯛と豆腐の真丈焼き」は、花のような盛り付けにホウレンソウソースの塩加減が上品な洋皿だ。「安達屋」の料理は、ほっとひと息つける山宿らしい親しみやすさと、サプライズ好きな料理人の心意気を感じる型にはまらない遊び心がある。食後の趣向となっている、ジャズの流れる囲炉裏ラウンジでいただくグラスデザートも物語を完結させる美味だった。

 女性専用タイムが過ぎ、嬉々と向かった夜半の「大気の湯」は、漆黒の闇に浮かぶ幽玄世界。岩や木、竹などの天然素材をバランスよくレイアウトした風呂は、雪の演出も手伝い、周囲の佇まいに溶け込む自然な趣きがある。湯船の一角に設けられた寝湯、打たせ湯は、今夜はかなりのぬる湯(笑)。それもまた、源泉かけ流しをうたう高湯ならではのご愛嬌だろう。身震いする寒さの中、暖を求め濛々と湯気が立ち込めた洞窟湯にこもり、しばし瞑想に耽ってみる。
 先約が居ないのを確かめ就寝前には再び貸切風呂に出向き、一の湯、二の湯を夫婦それぞれでシェア(!)。こんな贅沢もまた「安達屋」ならではの愉快さだ。

 深い眠りにすっきりと目覚めた翌朝。外は冬うららの蒼天。宿の朝食は暖炉のあるダイニングでの賑やかなブッフェスタイルだ。時折、パチパチと薪のはぜる音が響く中、和洋取り揃えられたカラフルなメニューに一日の元気を得る。朝から提供されるプチケーキのデザートは連れをはじめ、同宿したご婦人達にも人気のようだ。
 土湯峠へと抜ける磐梯吾妻スカイラインが閉鎖となる冬季。山中の孤湯となる高湯は、雪見露天を求め訪れる人々だけの“通”のたまり場となる。そのためだろうか、時間の流れもどこかゆるやかで、多くの人が宿を出発するギリギリまで湯を愉しんでいく。私たちもまた、朝陽が射す「大気の湯」で新雪に輝く白い世界に浸る(混浴タイムとなるこの時間帯の入浴はご了解のほどを)。ちなみに、ステンドグラスと石像の湯口がレトロな男性大浴場「不動の湯」も、ファンの間で密かな話題の内湯だ。時を経た佇まいがいい味わいとなっている「安達屋」は、いかにも高湯の老舗宿らしい、古き良き情緒に出合える場所だろう。

愉快千万、千変万化の出合い雪

 少し溶けてはまた積もる。冬の間、その営みを何度もそれを繰り返す高湯の雪は、大自然が創り出す芸術的な造形美でも私たちの目を愉しませてくれる。
 次に向かった「玉子湯」は、高湯のシンボルとでも言うべき茅葺きの湯小屋がある宿。湯気をあげる須川に沿って湯舎が点在する通称“温泉庭園”では、この季節、私たちと同じように雪見露天風呂目当てで訪れた人々が、火照った顔を扇ぎながら湯巡りを愉しんでいる。
 表面にガラス質の光沢をまとった雪が、幾層にも重なり迫力ある佇まいとなった庭園は、巨大な白いオブジェ達が立ち並ぶ愉快な景色(笑)。何気なく指で弾いた軒先の、氷柱が奏でるキンとした金属音に古い記憶がくすぐられる。
 日が翳り、またちらつき始めた雪に慌てて湯小屋に駆け込めば、そこは400年前と変わらぬ冷えた旅人を迎える温もりの時空間。今、私たちの生活をとりまく仮想現実と対極的なその姿に、ほっとした安堵を覚えるのは私だけだろうか。
 湯小屋のすぐ近くには開放感あふれる露天風呂「天渓の湯」や、女性専用の露天風呂「瀬音」もある。「玉子湯」に立ち寄りの際は内湯、露天それぞれに、高湯の冬ならではの極上感に浸って欲しい。

 ところで、この季節に高湯を訪れるなら、かつてこの地で逗留した人々のように、余裕を持った滞在で雪見温泉を味わっていただきたい。高湯の湯力は、滞在してこそその本領を発揮してくれる。
 私たちが今回、2泊目に訪ねた「吾妻屋」(詳しくはこちらのブログを参照)は、客にゆったりと温泉を愉しんで欲しいとの宿主の心意気から、日帰りでの立ち寄り入浴を行っていない。母屋を出て奥へ奥へと続く山の小道を上った先にある露天風呂「山翠」は、その名のとおり、山懐にそのまま湯が湧き出たようなワイルドな佇まいが魅力だ。ぽってりとした雪に包まれ、夢のように現れる翡翠色の湯は宿泊客だけが目にできる感動だろう。
 麓で梅の花がほころびはじめ、地元の蔵元が醸す縁起酒“立春朝搾り”が春の訪れを告げても、高湯はまだ冬の深い眠りの中にある。古く人々は、いつまでも溶けない雪を、まるで次の雪が降るのを待っているようだ、と“友待ち雪”の名で呼んた。思えば高湯の雪は、湯と雪をこよなく愛する友人達を待つ、そんな“友待ち雪”かもしれない。

■四季を彩るいこいの宿「安達屋」
〒960-2261
福島県福島市町庭坂字高湯21
TEL/024-591-1155
http://www.adachiya.jp/

チェックイン 14:00 ・チェックアウト ~11:00
日帰り入浴/10:00~13:00 700円

[入浴時間]
ご婦人内湯「姫の湯」
殿方内湯「不動の湯」
大露天風呂「大気の湯」(※18:00~21:00は女性専用)
貸切露天風呂「薬師の湯」〈一の湯・二の湯〉(要予約)6:00~24:00
貸切風呂「ひめさ湯り」(要予約)7:00~21:00(※22:00~6:00はフリー)

[温泉の利用形態]
天然温泉・源泉100%。完全放流式、加水なし、加温なし
(※「薬師の湯」は季節により加熱水を給湯)

[アメニティ]
大浴場と内湯/シャンプー、リンス、ボディーソープ、石鹸、ドライヤー等

[交通のご案内]
■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線~県道5号線16km(約30分)
■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「高湯前」下車(約40分)

※福島駅西口まで送迎いたします(要予約)
【お迎え】午後3時/【お送り】午前11時

■旅館「玉子湯」
〒960-2261
福島県福島市町庭坂字高湯7
TEL/024-591-1171
http://www.tamagoyu.net/

チェックイン 15:00 ・チェックアウト ~10:00
日帰り入浴/10:00~14:00(最終受付13:00) 700円
※定休日/水曜日

[入浴時間]
露天風呂と湯小屋「玉子湯」は6:00~22:00
大浴場「滝の湯」と内湯「仙気の湯」は0:00~24:00

[温泉の利用形態]
天然温泉・源泉100%。完全放流式、加水なし、加温なし

[アメニティ]
大浴場と内湯/シャンプー、リンス、ボディーソープ、石鹸、ドライヤー等


[交通のご案内]

■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線~県道5号線16km(約30分)

■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「玉子湯前」下車(約40分)

※福島駅西口まで送迎いたします(要予約)
【お迎え】午後3時15分/【お送り】午前10時30分

■「今昔ゆかしき宿 吾妻屋」
〒960-2261
福島県福島市町庭坂字高湯33
TEL/024-591-1121
http://www.takayu-azumaya.jp/

チェックイン 14:00~・チェックアウト ~10:00
※チェックイン時に内風呂「古霞」・貸切風呂ご利用のご予約を承っております
日帰り入浴/無

[温泉の利用形態]
天然温泉

[アメニティ]
シャンプー、リンス、ボディソープ、ドライヤー

[交通のご案内]
■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線~県道5号線16km(約20分)

■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「高湯」下車(約40分) 徒歩1分

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